日本酒の歴史
日本に酒が存在することを示す最古の記録は、西暦1世紀頃に成立した中国の思想書、『論衡』の記述に見られます。
3世紀に成立した『三国志』東夷伝倭人条(いわゆる魏志倭人伝)の記述にも酒に関する記述が見られます。
ただ、この酒が具体的に何を原料とし、またどのような方法で醸造したものなのかまでは、うかがい知ることはできません。
米を原料とした酒であることが確実な記録が日本に登場するのは、『三国志』の時代から約500年も後のことになる。

『大隅国風土記』逸文(713年(和銅6年)以降)に、大隅国(今の鹿児島県東部)では村中の男女が水と米を用意して生米を噛んでは容器に吐き戻し、一晩以上の時間をおいて酒の香りがし始めたら全員で飲む風習があり、「口嚼(くちかみ)ノ酒」と称していたといいます。口噛み酒は唾液中の澱粉分解酵素であるアミラーゼ、ジアスターゼを利用し、空気中の野生酵母で発酵させる原始的な醸造法であり、東アジアから南太平洋、中南米にも分布しています。現代日本語でも酒を醸造することを「醸(かも)す」というが、その古語である「醸(か)む」と「噛(か)む」が同音であるのは、この口嚼ノ酒に由来すると言われていますが、異説もあります。
そして、『播磨国風土記』(716年(霊亀2年)頃)には、携行食の干し飯が水に濡れてカビが生えたので、それを用いて酒を造らせ、その酒で宴会をしたという記述が見える。こちらは麹カビの糖化作用を利用した醸造法であり、現代の日本酒のそれと相通じるものである。このように、奈良時代の同時期に口噛みによるものと麹によるものというふたつの異なる醸造法が記録されています。
のちの万葉集(759年以降成立)にも濁り酒、黒酒、白酒、糟湯酒などが歌の中で読まれています。

日本酒の種類
本醸造酒に純米酒、吟醸酒に純米大吟醸……みなさん、聞いたことはあると思いますが、その違いを正しく説明できますか? 実は、この違いを説明するために覚える要素はたった2つ。それは、「醸造アルコール」と「精米歩合」です。

醸造アルコールとは
純度が高くて無味無臭。加えると酒質がクリアになる効果もあります。
サトウキビなどを原料にした蒸留酒で、純度が高く無味無臭。日本酒を造る過程で添加します。こちらを添加せず、米、米麹、水だけで作るのが純米酒です。「アルコールを添加するのは良くない!」と、飲む前から避ける人がいますが、それは非常にもったいない。醸造アルコールを添加することで、さらりとした酒質になり、香りがよくなるといったメリットもあります。

精米歩合とは
米を削った割合のこと。精米歩合が高い(数値が低い)ほどすっきりした味わいです。
お米は外側に近い部分に脂質やアミノ酸などを多く含んでおり、これらは旨みのもととなる反面、雑味の原因となります。そこで、澄んだ酒質にするため、お米の外側を削るのが精米です。精米歩合とは、精米した後に残った酒米をパーセンテージで表示したもの。精米歩合35%とは、65%を削って残りの35%を原料にしたという意味です。精米歩合を高くする(削る部分を多くする)と、香り高くすっきりとした酒質になり、低くすると濃厚な味わいのお酒になります。

 

精米歩合と醸造アルコールによる分類

精米歩合 醸造アルコールを加えたもの 醸造アルコールを加ていないもの
規定なし 普通酒 純米酒
70%以下 本醸造酒 純米酒
60%以下または特別な製法 特別本醸造酒 特別純米酒
60%以下 吟醸酒 純米吟醸酒
50%以下 大吟醸酒 純米大吟醸酒

 

特定名称 特徴
普通酒 醸造アルコールを加えたもので、精米歩合には規定なし。特定名称酒(以下の8種類の酒)に含まれない清酒はすべて普通酒。酒税法の特定名称酒の条件を満たさないだけで、普通酒でもおいしい酒は数多くあります。
本醸造酒 原料が米、米麹、水、醸造アルコールで、精米歩合が70%以下。本造り、本仕込みともいいます。すっきりした辛口になる傾向が多く、日本酒のスタンダードといってもよいタイプ。燗にも向いているものが多いです。
純米酒 醸造アルコールを加えておらず、米、米麹、水だけで造った酒。精米歩合の条件は特にありません。米の旨みやコクがあり、お燗にも向いているものが多いです。そのどっしりした味わいから、本格派の日本酒ファンに人気があります。
特別本醸造酒 本醸造と同じく、原料は米、米麹、水、醸造アルコール。精米歩合が60%以下と本醸造酒よりも高くなっています。精米歩合が60%以上の場合でも、酒造好適米(酒税法で規定されている酒造に適した品種)を50%以上使ったものや特別な製法を使ったもの(長期発酵や特別な搾り方など)も「特別本醸造酒」と名乗ることができます。
特別純米酒 精米歩合が60%以下。純米酒と同じく、原料は米、米麹、水だけで造っています。純米酒と違うのは精米歩合に関する規定があること。精米歩合が60%以上の場合でも、酒造好適米(酒税法で規定されている酒造に適した品種)を50%以上使ったものや特別な製法を使ったもの(長期発酵や特別な搾り方など)も「特別純米酒」と名乗ることができます。
吟醸酒 原料は米、米麹、水、醸造アルコール。精米歩合が60%以下で、低温でじっくりと時間をかけて発酵させる吟醸造りで造られたお酒。軽快な飲み口で、吟醸香というフルーティな香りが楽しめます。
純米吟醸酒 米、米麹、水だけを原料にして、精米歩合は60%以下。低温で発酵させる吟醸造りで丁寧に造られています。華やかな吟醸香、きれいな酒質が特徴です。
大吟醸酒 精米歩合は50%以下と、米を磨きに磨いています。吟醸酒と同様、米、米麹、水、醸造アルコールを使い、吟醸造りをさらに徹底させて醸しています。より一層華やかな香りが立ち、さらりと澄んだ酒質が楽しめます。
純米大吟醸酒 精米歩合を50%以下とし、米、米麹、水だけを原料としたお酒。吟醸造りで丁寧に醸されています。醸造アルコールを使った大吟醸酒よりも香りは穏やかで、やさしい米の甘みが感じられます。

上記の表より日本酒の種類には、ポイントが2つあります。
1.醸造アルコールを添加していないものには「純米」がつき、2.低温発酵を行う吟醸造りのうち、精米歩合で60%以下だと「吟醸」、50%以下は「大吟醸」となります。

 

 


日本酒の用語説明

用語 説明
アルコール度 日本酒のアルコール度数は15~16度くらいが一般的。加水していない原酒はもっと高く、高いほど味が濃くなります。
生酛(きもと)仕込み 酒母(酛)造りは、優良な酵母を育成するための重要な工程。生酛仕込みは伝統的な手法で、酵母を雑菌や微生物から守る乳酸菌を、自然界から取り込む方法です。濃淳な旨みと酸がある本格的な味わいの酒になります。
蔵元 酒蔵の当主のこと。古くは経営だけで酒造りは杜氏(とうじ)に任せていたが、最近は杜氏も兼ねる蔵元が増えています。
原酒 日本酒はアルコール度数の調整のために、水を加える(加水する)ことが多いですが、加水をしないのが原酒。通常よりアルコール度が高く、濃い味わいが楽しめます。火入れをしない生酒であることが多く、両者を組み合わせた「生原酒」として出荷される場合が多いです。
酸度 乳酸、コハク酸、リンゴ酸などの酸の含有量を%で表示したもの。通常は1.3〜1.5%です。酸度が高いと味が濃くなり、低いと淡麗に。酸が高いと加熱しても味が崩れにくく、燗酒向きになります。
熟成酒・古酒 熟成させたお酒のこと。搾りたてのときはフレッシュで荒々しかった酒が、寝かせることによって味が熟成して、複雑な風味が出てきます。琥珀色に色づいている場合が多いです。
醸造アルコール サトウキビなどを原料にした蒸留酒で、純度が高く無味無臭。日本酒を造る過程で添加します。添加物が入っていると敬遠される方もいますが、実は増量目的のほかに、酒質がクリアになり、香りがよくなるなどのメリットがあります。
精米歩合 精米した後に残った酒米をパーセンテージで表示したもの。精米歩合35%とは、65%を削って残りの35%を原料にしたという意味です。精米歩合を高くすると香り高くすっきりとした酒質になり、低いと濃厚な酒になります
杜氏(とうじ) 酒造りの責任者のこと。卓越した技能を持った職人中の職人です。酒造りの季節になると杜氏が配下の蔵人を連れて酒蔵に赴き、日本酒の製造に従事します。南部杜氏、越後杜氏などの流派があり、それぞれ独自のノウハウを持っています。
BY(ビーワイ) 酒造年度。7月1日から翌年の6月30日の1年間を指します。「27BY」とは、平成27酒造年度(平成27年7月1日~)の仕込みのものを指します。
生酒 通常2回行う火入れをしないで、そのままで商品化したお酒のこと。瓶の中で酵母が生きており、フレッシュな味わいを楽しめます。生モノなので冷蔵保存が鉄則。早めに飲んだほうがおいしくいただけます。
生貯蔵酒 通常2回の火入れのうち、1回目の火入れをしないで生のままで貯蔵したお酒。瓶詰め前の火入れのみを行うことで、生の風味に近づけています。生の状態が長いため、より熟成が進んでフレッシュ感が強く残ります。
生詰(なまづめ) 通常2回の火入れのうち、1回目の貯蔵前の火入れは行い、2回目の瓶詰め前の火入れは行わない酒。先に1回火入れをしているので、生貯蔵酒より落ち着いた印象になります。
にごり酒 もろみを搾るときに、粗い布で搾ることで、あえてオリを残した酒のこと。白いにごりが入り、もろみの濃厚な香りや味わいが楽しめます。女性からも人気の高い酒で、発泡していることも多いです。通常は冷やで飲むのが一般的ですが、近年はにごり酒を燗にするお店も見られます。
日本酒度 日本酒の甘辛の度合いを「+(プラス)」と「-(マイナス)」の数字で表します。辛口になるほど+の値が増え、甘口になるほど-の値が増えます。一般的には+5以上は辛口、-5以上は甘口とされますが、アルコール度数、酸度によっても変わるのであくまでも目安です。
発泡清酒 炭酸ガスを含んだ日本酒。シャンパンと同じよう爽やかな飲み心地が味わえます。最近注目のトレンドです。
火入れ 酒を腐らせる火落菌を殺し、酵素の働きを抑えるために行う加熱処理。貯蔵する前と瓶詰めする前の2回行います。通常、ラベルに「生」「生詰」「生貯蔵」と書いていなければ、2回の火入れを行ったものになります。
無濾過(むろか) 活性炭の粉末を投入し、雑味や色を吸着させるのが「濾過」。これを行わないのが「無濾過」です。もろみの香味や日本酒らしいうまみが残るので、日本酒ファンの支持も高いです。濾過をすると、ある程度味が整うものですが、これを行わない無濾過の場合は職人の腕がダイレクトに出るので、技術を問われるジャンルでもあります。
山廃(やまはい)仕込み 明治時代末期に開発された、酒母を仕込む方法。昔ながらの生酛仕込みから山おろしという手間のかかる作業を廃止したので、この名がつきました。生酛(きもと)と同様に、酸がしっかりとした、骨太な酒になるのが特徴です。